会長挨拶

年頭所感(賀詞交歓会挨拶から)

一般社団法人 日本鋳鍛鋼会会長
天野 肇

新年あけましておめでとうございます。旧年中は当会の運営に皆様のご支援とご協力を賜り、誠にありがとうございました。本年も変わらぬご指導ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

昨年を振り返りますと、一昨年に引き続き変化の大きい年でした。国際情勢においては、米国トランプ政権発足後の貿易保護政策に伴い、各国における貿易摩擦や通商問題で先が見通せない経済状況でした。今後もまだ予断を許さない状態ですので、十分に注視していく必要があります。

環境面においては、12月にポーランドで開催されたCOP24において、低炭素社会への国際枠組み「パリ協定」達成へのルール策定が議論されました。それに伴って鉄鋼業界では脱炭素化技術への取り組みが宣言され、自動車のEV化など機構変化に大きな影響を及ぼすと考えられます。また、昨年は地球温暖化の影響か、世界各地で台風・猛暑などの異常気象や、国内では大阪や北海道で大きな地震が発生しました。ご不幸に遭われた皆様に対してお見舞いを申し上げるとともに、被害のあった地域の早い復興をお祈り申し上げております。

経済面では、米中の経済動向が世界経済に大きな影響を及ぼす一年となりました。先に述べました貿易摩擦による中国の経済減速や地政学的リスクなどで、年末には一時的に株安・円高が進む事態となりました。

一方で、資材コストについても激変した一年でした。中国における環境規制の強化により、耐火物の原料の発掘が一時的に制限される事態になりましたし、スマートフォンやEV車の普及によりリチウムイオン電池の負極に使われる黒鉛電極の需要が高まり、その原料となるニードルコークスの需給がひっ迫し、電気炉で使用する黒鉛電極の急激な値上げが当業界の収益へ大きなインパクトを与えました。経済のグローバル化と言われて久しいですが、国内需要や国内経済だけで会社の景気を測るのは困難な時代に入り、世界経済や環境保護による社会的影響が、国内の資材コストや鋳鋼や鍛鋼の売り上げに大きな影響を与えるため、世界動向から目が離せない状況になっています。

また、昨年印象に残った出来事として、大学やスポーツ界、あるいは企業で発生した様々な不祥事がありました。企業統治、すなわちガバナンスの強化は世間や株主からの関心も大きく、当業界においてもESG(環境・社会・ガバナンス)を念頭に置いた経営を推し進める必要があります。

ガバナンスの強化と、稼ぐ力や企業の成長を促す革新の関係について触れさせていただきます。革新とは英語でイノベーションと言われますが、これは常識を覆すような技術的な発明にとどまらず、将来のあるべき姿から顧客のニーズを創り出していく今までにない新しい流通やサービスの在り方など含めてイノベーションと定義しております。素直に考えますと、ガバナンスを強化することとイノベーションとは相反するところがあり、ガバナンスを強化し、守りを固めることでイノベーションが起きにくいような気がします。ガバナンスを強化せよと言いすぎると、企業の成長を妨げることにつながると書かれた評論を目にしたこともあります。では、この相反するように見えるガバナンスとイノベーションは両立できないトレードオフのようなものでしょうか。

会員企業におかれましても、起業された時から大切にしている理念や会社の存在意義を考えながら経営をされていると思います。その意義とは、例えば世の中のニーズを捉えて、商品やサービスに置き換えて、世の中に役立つ商品・素材・付加価値などを提供することであり、あるいは徹底的に顧客と向き合い、共になって良い商品を世に創り出していくことであり、社会・顧客・従業員に対して果たすべき基本的な理念のようなものです。このような意義を経営者と従業員の間でしっかり共有できていれば、ガバナンスを効かせつつ、常に革新を起こそうとする気概に満ち溢れているのではないかと思います。会社の収益はその結果としてついてくるのであって、自分の会社が世の中でいつも必要とされている存在でありたいという考え方がとても大切だと考えます。事実、海外の会社でそのような理念をしっかりと持ち、会社内部でその理念を共有しているところは、100年以上を経て今もなお成長を続けています。会員の皆様は、日本のものづくりを基盤に活躍されていますが、世界的に見ても最も安心できる品質を有する素材や製品を世界中に出し、その商品が世界に必要とされる意義をぜひ強くお感じになり、会員の皆様が大きく成長されればと念じております。

さて、本年も当会では昨年に引き続き、国際競争力強化のための技術革新、若手・中堅の人材育成、タイムリーな市場動向の把握、安全活動の活性化と環境エネルギー活動の4本柱で活動をしてまいります。この中でも特に、若手・中堅の人材育成と、安全活動の活性化については活発に開催される分科会や鋳鍛鋼会で参加する国際学会や技術論文などに重点をおいて、しっかりと進めていきたいと思います。当会活動へのご理解を賜り、積極的なご協力・ご参加を本年もよろしくお願い申し上げます。

最後に、当会の活動を盛り立てて、将来の刈り取りに向けた、明るく力強く意義のある一年であることを誓い、また皆さんにとって実りある年となることをご祈念申し上げ、年頭のご挨拶とさせていただきます。

一般社団法人 日本鋳鍛鋼会会長 天野 肇(大同特殊鋼株式会社 常務執行役員)

過去の会長挨拶

令和6年(2024年) 年頭挨拶(1月11日新年会にて) 小野田 謙一
令和5年(2023年) 就任挨拶
年頭挨拶 太田 大介
令和4年(2022年) 就任挨拶「力強い健全な業界へ」
年頭挨拶 岩本 隆志
令和3年(2021年) 就任挨拶
年頭挨拶 森 啓之
令和2年(2020年) 年頭挨拶(賀詞交歓会挨拶から)
平成31年/令和元年(2019年) 就任挨拶(鋳鍛鋼業界の発信力向上に向けて)
年頭所感(賀詞交歓会挨拶から) 天野 肇
平成30年(2018年) 年頭所感(賀詞交歓会挨拶から)
平成29年(2017年) 就任挨拶(創立70周年記念祝賀会にて)
年頭所感 仲田 摩智
平成28年(2016年) 年頭所感